2012年5月27日日曜日

宗教と経済成長の関連の一証左

東京、20年夏季五輪開催に王手

花形産業への進出


明治HDが中期経営計画 統合効果で営業利益400億

最近読んだ『経営の大局をつかむ会計』で示されていたある法則との関わりで気になったので紹介します。

「主力とは異なる産業に進出する場合、その時代ないしは次代の花形産業に進出する」、という法則です。
14年度に売上高で11年度比7.3%増の1兆1900億円、営業利益で98.1%増の400億円を目指す。(中略)医薬品分野の14年度の目標数値は売上高11.8%増の1400億円、営業利益22.2%増の100億円。ジェネリック(後発医薬品)などを強化するほか、海外の製薬会社と共同でバイオ新薬の開発にも乗り出す。
目標値ですが、営業利益の四分の一が医薬品分野。すごい割合です。

そう、ここでは医療・製薬といったバイオ産業が、参入される市場です。
人の命や暮らしに直結するバイオ産業は国を問わず発展が望まれており、進んだ成果は基本的に全世界に分配されます。いわば発展に終わりのない産業ですから、技術力さえあれば誰もが参入したいところだということです。去年も富士フイルムがジェネリック医薬品大手企業Dr. Reddy’s Laboratories と業務提携するというニュースがあり、なぜ?と思いましたがそういうことみたいですね。


ちなみにこの法則は言われてみれば当たり前です。しかし、多角経営企業が「なぜその事業を始めたのか」と遡ることで、前時代の花形産業の面影を見ることができます。
例えば同書では2005年頃に栄えた消費者金融に目を付けた当時の好調企業が金融業に進出したことに触れています。(ソニー、セブンイレブン、トヨタ…etc)



CCS技術開発について


機械大手、CO2回収事業に本腰 新プラント開発、地中貯蔵技術確立

三菱重工が開発した回収プラントは、火力発電所や高炉から出る排出ガスから特殊な溶液を使ってCO2のみを分離回収する。従来は500トンが回収の限界だったが、新たに世界最大の3000トンの回収能力を持つ設備を開発した。
三菱重工業の新プラント開発を受け、日立やIHIもCCS(CO2を地中に貯蓄する技術)の研究開発に本腰を入れていく、という記事です。

CO2処理の問題を解決する上でCCS技術に期待するのは勿論ですが、僕は原子力発電により生じる放射性廃棄物問題との関連で期待をしています。

CO2と、放射性廃棄物には類似点があります。どちらも(人間にとっては)負の生産物であり、主に先進国が解決策を模索しているという点です。現状ではCO2問題の方が数歩先を行っているため、放射性廃棄物問題の解法はその後を追うことで見つかるはず。

例えば、排出権取引。
マイナスの価格が付いた"負の商品"として売買可能にするこのアイディアは放射性廃棄物でも同じことができるはずです。この手段を「先進国らしい、資金力にモノをいわせるやり方」だと非難する人もいるようですが、世界には誰も使用していない・今後使用されない土地がいくらでもあり、そうした土地を持つ発展途上国にとってはビジネスチャンスになります。自然環境への影響はあるにしても、少なくとも非人道的ではない方法だと思います。

そのうち放射性廃棄物地中貯蔵技術なんてものも開発されるのではないでしょうか。

2012年5月20日日曜日

景気とIT投資の関係

一般的に情報サービス産業の景気は、顧客となる他業界の景気よりも1年程度遅れるといわれています。前年の損益が次の年の投資計画を決める、考えてみれば当然の話です。

景気とIT投資
Figure 1. 景気とIT投資
参考:「日本統計年鑑」総務省「社会実情データ図録」「IT投資動向調査」ITR 
しかし調べてみても景気とIT投資の関連を示すわかりやすいグラフが見つからなかったのと、数字とデータに強くなる練習も兼ねて作成しました。

Figure1.は全産業の営業利益を左軸に、実質GDP成長率とIT投資指数を右軸にとり、各データの推移を表しています。IT投資指数とは、ITRが発表している「IT予算の増減傾向を指数化したもの」です。
(本当はもっと長いスパンで見たかったのですが2001から2010のデータしか得られませんでした)

GDPと営業利益の違い

まず選択したデータの理由について。

景気を表す代表的な指標といえばGDPですが、ここで考えたいのは企業のIT投資なので本業の儲けを表す全産業の営業利益も引っ張ってきました(1)

ところで、僕は以前GDPと利益の違いをよくわかっていなかったために恥をかいたことがあります。付加価値という概念を誤解していました。戒める意味でも一度整理しておきます。

利益といっても会計用語では段階があり、付加価値に最も近い(2)のは粗利ではないでしょうか。
例えばラーメン屋が100円で仕入れた面や具材を加工し、600円の価値あるものにします。この場合、500円の付加価値を生み出したことになりますが、この算出方法は粗利とまったく同じです。しかしラーメンをつくるための人件費や機材の減価償却費等がここからさらに引かれますから、純利益は基本的にはさらに小さくなります。この考え方を無視すると、付加価値=利益という曖昧で乱暴な等式を採用しかねません。それだけは避けましょう。

IT投資

話が逸れましたが、情報サービス産業の景気は他産業の景気から一年遅れになるかという話です。

Figure1.で最もわかりやすいのは、見事に一年のずれでリーマンショックの影響を受けている点でしょう。営業利益とGDP成長率がともに落ち込む2008年のIT投資は、前年に比してわずかに劣る程度で、翌2009年が急激な落ち込みです。

Figure 1.におけるIT投資を一年前倒しにしたもの
Figure 2. Figure 1.におけるIT投資を一年前倒しにしたもの
参考:「日本統計年鑑」総務省「社会実情データ図録」「IT投資動向調査」ITR  
Figure1.のIT投資指数のグラフだけを一年ずつ前にずらしたのがFigure2.です。これを見るとGDP成長率とIT投資の推移はほぼ重なっています。

ただ気になるのが、
  1. 2001年頃は営業利益やGDPと関わらずIT投資指数が高い水準にあることと、
  2. 営業利益とGDPがともに上向いた2001から2003の変化にIT投資指数が対応していないことです。
いったい何が起きていたのか。
この現象を引き起こした一番の要因は、ITバブルとその崩壊による影響です(3)

1990年代末期に、消費者との直接の双方向的通信を大量に処理できるe-コマースの可能性が現実化し、既存のビジネス・モデルを揺るがせた。このため多くの会社がインターネット関連投資に走り、これらのサービスを提供するIT関連企業に注目が集まった。さらに1998年から1999年にかけて持続した米国の低金利がベンチャー創業資金や投資資金の調達を容易にした。 
このような株価の崩壊のなかで、多くのIT関連ベンチャーは倒産に追い込まれ、2002年の米国IT関連失業者数は56万人に達した。グーグルアマゾン・ドットコムe-ベイなど一部のベンチャーのみが生き残った。崩壊後の不況の最中、2001年9月11日に同時多発テロが発生し、アメリカは深刻な不況へ突入した。  (Wikipediaより)
本来の景気から考えれば不自然なほど、企業はITに投資をしていた。また、バブル崩壊後は景気の上昇にも関わらず投資への慎重な姿勢が続いた。
こうした時代背景がグラフを眺めているだけではわからなかった上記2点を説明してくれます。

以上、データ分析の練習を兼ねた景気とIT投資の関係についてでした。今後の予測については2011~2012のデータが必要だと思われるので今回は省略します。




(1) しかし営業利益よりはGDP成長率の方がIT投資指数との相関が高く見える。
(2) 完全にイコールではない。
(3) バブルをくぐり抜け生き残ったAmazonのCEOジェフ・ベゾスが、TEDの講演(Jeff Bezos on the next web innovation)で".com bubble"について語っています。

2012年5月16日水曜日

恣意の一貫性

『予想通りに不合理(Predictably Irrational)』に関する読書メモです。

著者のDan Arielyは行動経済学では有名な人らしく、TEDの講演 Dan Ariely asks, Are we in control of our own decisions? などで知られているようです。

いかに人が不合理な選択をするか。また、いかにその不合理な選択が予想可能であるか。
予想可能であるがゆえに、個人においてはリスク回避と"より合理的な選択"の可能性を与え、企業活動などにおいてはマーケティングに有用なアイデアが盛り込まれています。

前評判が高かっただけに期待値が高騰していたけども、その期待をさらに上回る面白さです。我々の好奇心をくすぐるような疑問に対し、数多くのいたずら心ある実験で答えを出していくアリエリと、そして彼のシニカルでコミカルな表現には好感が持てます。

現在10章まで読了し、心に残ったのは以下のアイデア。

  • 恣意の一貫性(2章)
  • おとりとしての選択肢(1章)
  • 人はできるだけ多くの選択肢を失うことに苦痛を感じる(8章)

3つのうち今日は最初の1つについてのみ記します。


最近は"選択"について考える機会が多い。その中で、モヤッとして言葉にできなかったものを上手く言い得たのが「恣意の一貫性」。我々が一度下した決断(主に価格決定)にいかに縛られているかを示す言葉です。
ひとつの品物について出してもいい金額が決まると、同じカテゴリーのべつの品物にいくら出すかも、最初の価格(アンカー)との比較で判断されるということだ。
僕がルームシェアをしていてお金がなかった頃、すべての物を「高い(expensive)」と感じていました。偶然にもタイムセールに出くわし、25円でもやし1パックを買えた次の日には50円で同じ商品を買おうとは思わなかった。300円を払ってカフェに居座るよりは家か大学の図書館に居た方が遥かにマシだと思っていた。
現在では、産経新聞とFuji Sankei Business i. が無料で読めるから、4000円払って日経の電子版を購読するわけがないと考えている。

一度価格の基準となるアンカーを下ろすと、なかなかそこからは動けない。

そのアンカーはでたらめに下ろされた(恣意的な)ものであっても機能する。

このアンカーのために人は以前の選択をもとに善し悪しを判断し、似た行動を繰り返す(これを自己ハーディングという)。こうして最初の決断は習慣へと変わっていく。


面白いのはこのアンカーが「決して動かせないものではない」ということ。
同書では、最初は価格に驚きながらも後々スターバックスに通うようになった男の話をしているし、これは我々の周りでもよく起きることだ。俗に言う「生活水準の引き上げ」もこれにあたる。
(だからこそスターバックスは成功している)



ここで重要なのは、
最初の決断は思っているよりも遥かに後々の行動に影響を及ぼすということと、価値判断は思っているよりも経験や知識に左右されているということだ。

もし不合理な選択の経験があり、後悔し、改善を求めているならば、まずはこれらに自覚的になるほかない。